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Key Point

神経ブロック

神経ブロックとは

神経ブロックとは主として末梢神経(脳脊髄神経や交感神経節)に直接またはその近傍で局所麻酔薬、神経破壊を作用させたり、高周波熱凝固、パルス高周波通電を行うことにより一時的あるいは長期間にわたり神経機能を停止させ痛みを軽減することを目的とした治療法です。

神経ブロックの意義は、「知覚神経ブロックによる除痛効果」、「交感神経ブロックによる血行改善効果」、そしてこれらの作用に基づく「痛みの悪循環を遮断する効果」にあります。 神経ブロックの効果は、病変部位に限局して発揮できる点も特徴的です。また、痛みを起こしている神経を遮断することにより痛みが本当に軽減するかを確認することにより、その神経が痛みの発生に関与しているか否かを判定するための診断的ブロックとしての役割もあります。

一方、痛みを起こす疾患のみならず、痛みが起こらない疾患、たとえば顔面神経麻痺、網膜中心動脈閉塞症、アレルギー性鼻炎、突発性難聴などにも血流改善を目的として交感神経ブロックが行われます。神経ブロックの種類はたくさんありますが、主なブロックの適応疾患を表1に、そのうちのいくつかのブロックを実際に施行している写真を図1に示しました。手技的に比較的容易に行える神経ブロックもあれば、難易度の高いブロックもあります。

神経ブロックに使用する薬剤

1)局所麻酔薬
一時的に神経伝達を遮断するのであれば局所麻酔薬(リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカインなど)を使用します。知覚神経、交感神経を遮断するのであれば、局所麻酔薬を生理食塩水で希釈して濃度を薄めて使用します。知覚神経だけを長時間遮断するのであれば、高濃度の局所麻酔薬を使用することもあります。

2)神経破壊薬
長期間のブロックの効果を期待する場合には神経破壊薬(無水アルコール、フェノールグリセリン、フェノール水など)を使用します(ブロックの種類により使い分けます)。神経破壊薬を使用する前に必ず局所麻酔薬によるブロックの効果を確認します。三叉神経ブロックに神経破壊薬を使用する場合には、患者に皮膚の感覚が長期間にわたり消失し、しびれた感覚が我慢できるかどうかを体験してもらい、その状態が受け入れられることを確認してから神経破壊薬によるブロックを行います。
なお、神経破壊薬を注入する前に造影剤を投与して薬液の流れ方を確認する場合もあります。

3)副腎皮質ステロイド
神経に生じた炎症を抑えるために水溶性の副腎皮質ステロイド製剤を局所麻酔薬に添加する場合があります。

4)造影剤
針が正しい場所にあるかを確認するために、その後に投与する薬液の流れに問題がないかどうか(ブロックしなくてよい神経の方向に造影剤が流れていかないか)を確認するために造影剤を単独、もしくは局所麻酔薬に混じて使用することがあります。

高周波熱凝固、パルス高周波法

高周波熱凝固は高周波エネルギー(70~90℃)で神経を熱凝固させ長期間にわたり神経伝達を遮断する方法です。目的とする神経だけを遮断することができます。またパルス高周波法は高周波電流を42℃以下で間歇的に通電することにより熱凝固を起こさせずに鎮痛効果を得る方法で、神経破壊をおこさないため安全で侵襲の少ない治療法です。

神経ブロックを行う場合の全般的な注意点

以下に示すような合併症が起こる可能性があります。静脈路を確保するための静脈内留置針、輸液製剤、点滴セット、各種循環作動薬を準備しておくべきです。また、酸素投与、バックバルブマスクによる人工呼吸ができる体制で臨まなければなりません。

1)出血傾向の有無の確認
抗血小板薬や抗凝固薬の内服の有無を確認しておく必要があります。血液が凝固しにくい状況では神経ブロックを行うことは差し控えなければなりません。これを無視して行うと深部に血腫ができて神経を圧迫したり、気道を閉塞したりなど重篤な合併症を誘発する可能性があります。

2)局所麻酔薬中毒への対応
局所麻酔薬を大量に使用した場合、局所麻酔薬が動脈内、静脈内などの血管内に注入された場合には局所麻酔薬中毒を発症する可能性があります。局所麻酔薬中毒の治療薬であるジアゼパム、ミダゾラムなどのベンゾジアゼピン誘導体またはチオペンタール、チアミラールなどのバルビツール酸をすぐに使用できるようにしておく必要があります。

3)神経原性ショック
痛み刺激により迷走神経反射がおこり、急激な徐脈、血圧低下などが起こりことがあります。

4)アナフィラキシーショック
局所麻酔薬自体によるアレルギー反応、局所麻酔薬に添加されている薬物がアレルゲンとなる可能性があります。

5)神経損傷
針を刺す行為なので、針による神経損傷を起こす可能性があります。

神経ブロックに使用する医療機器について

1)ブロック専用の針
ブロックの種類により使用する針の太さ、長さは異なります。また、後述する末梢神経刺激装置、高周波熱凝固装置を使用する場合には、針先端だけが絶縁していない専用の針を使用します。

2)X線装置
針が適切な位置に到達しているかどうかを確認するため、造影剤の広がりをかくにんするために、X線透視装置、CTを使用しながらブロックを行う場合があります。

3)超音波エコー装置
近年、超音波エコー装置が神経ブロック時に使用されるようになってきました(超音波ガイド下神経ブロック)。神経ブロックに特化した機種も販売されています。超音波ガイド下にブロックを行うことにより、安全に(神経損傷、血管穿刺の回避が可能)かつ正確に神経ブロックを行うことが可能になりました。

4)末梢神経刺激装置
末梢神経を電気刺激しながら針を進めていき、針が神経の近傍に到達するとその神経が支配している筋肉の収縮が起こります。その部位で薬液を注入します。最近では前述の超音波エコー装置と併用して行うのが一般的です。

5)高周波熱凝固装置
高周波熱凝固、パルス高周波法を行うのに使用します。

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