ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在

がん性痛

1.「がん性痛」とは

がんが関与する痛みですが、がん自体が引き起こす痛みばかりではなく、がん患者が感じるさまざまな痛みをがん性痛と定義する考え方があります。すなわち、がん患者の抱える全人的な苦痛(身体的な苦痛、精神心理的な苦痛、社会的な苦痛、スピリチュアルペイン)を把握してそれぞれに対応することが、医療現場のチーム医療では大切にされているからです(図1)。がん性痛は、がん自体による痛み、がんの診断や治療に伴う痛み、がんそのものとは直接の関係がない痛み(元々患者が持っている疾患による痛み、新しく生じた疾患による痛みなど)に分けられます。また、がん性痛を急性痛と慢性痛に分けて解説する考え方もあります1)。このテキストブックでは、がん性痛の急性痛として診断や治療による侵襲医療行為に伴うもの(腰椎穿刺に伴う頭痛、生検に伴う痛み、化学療法に伴う痛みなど)を取り上げていますし、慢性痛としては、がんの骨転移による痛み、関節痛、筋肉痛、頭痛・顔面痛などをそれぞれ解説しています。このようにがん性痛に向き合う医療者は、がん患者が苦しむさまざまな痛みを理解して評価し、対応することが求められています。

痛みを神経生理学の観点から大きく分類すると、侵害受容痛、神経障害痛、心因痛に分類できます。がん性痛にはこれらの痛みが複合して存在することが多くみられます。

侵害受容痛とは、機械刺激、温冷覚刺激、化学刺激などにより末梢神経の侵害受容器が刺激されて脊髄視床路を介して中枢に伝わって生じる痛みで、内臓痛と体性痛があります。内臓痛とは、がんが内臓器に侵害刺激を与えて生じるもので、神経線維はC線維が伝達しますが伝達速度は遅く局在不明瞭な鈍い痛みである特徴があります。このような痛みにはオピオイドが有効です。体性痛とは、がんが骨・筋・皮膚などに転移・浸潤して侵害刺激を与えて生じるもので、神経線維はAδ線維が伝えますが、伝達速度速く局在明瞭な痛みとなります。このような痛みにはNSAIDsが有効です。

神経障害痛とは、体性感覚系の病変や疾患によって生じる痛みであり、例としては神経・脊髄などへの腫瘍の圧迫や浸潤からくる痛みがあります。灼熱感、しびれ感、電撃痛、発作痛、アロディニア(触刺激に伴う痛み)などの症状があります。このような痛みは難治性であることが多く、オピオイドに加えて鎮痛補助薬(抗痙攣薬、抗うつ薬など)が必要となります。

心因痛とは、精神心理的要素が 関与する痛みです。がん患者は、がんの進行、特に転移を気にしますし、いろいろなことを自分の病状として厳しくとらえる傾向にあります。医療者の言動や態度が患者に精神心理的に苦痛を与えて、それがさらに痛みを増強させる要因となり得ます。この痛みの対応は難しいものがありますが、少なくとも精神心理的な苦痛を与えないようにする注意と配慮が必要です。

Key Pont:オピオイド

2.がん性痛の評価

がん性痛の評価として、痛みについての問診が重要となります。痛みは本人の主観であり、客観的な評価が難しくとらえにくい特徴がありますが、痛みの評価を正しく行うことで、その対応がより適切になります。痛みの強さの評価としては、VAS (Visual Analogue Scale)やNRS (Numerical Rating Scale)などが用いられています。基本としては、同じ評価法で痛みの強さを継続して評価していくことが必要です。痛みの部位はもちろんですが、痛みの性質を評価することも大切です。痛みの性質とは、患者が表現する痛みですが、ずきずき疼くようだとか、拍動性のものだと侵害受容痛の可能性があります。灼熱感や電撃様の痛みなどは神経障害痛の可能性が考えられ、判断するための重要な情報となります。痛みが悪化する要因や軽減する要因も把握します。風呂に入って温まると和らぐ痛みは交感神経系が関与していることが考えられ、交感神経ブロックを痛みの治療として適応できる可能性があります。また、痛みによるADL(activity of daily living)障害の把握は重要であり、特に排泄障害や睡眠障害を引き起こす痛みは、しっかりと対応しなければなりません。痛みの経過として、持続痛なのか、突出痛なのか、持続痛に突出痛が加わった状態なのかを把握して、痛みの治療に望むことも必要です。持続痛が主体であれば、オピオイド徐放製剤を使用して対応することが基本となります。突出痛、すなわち、一過性の痛みの増強(ピークに達するまでは3分ほどで持続時間は15〜30分、ほとんどは1時間以内に消失する痛み)がある場合には、オピオイド速放製剤による対応が必要となります。それぞれの痛みの状況を把握して、適切な治療を行うことが重要です。

3.がん性痛の治療

がん性痛治療の基本として、WHO 3段階除痛ラダーがあります(図2)。非オピオイド系鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬を痛みの強さに応じて使用しますが、医師にとって大事なことはがん性痛を速やかに抑えることです。明らかに強い痛みを訴えている患者には、第1段階から開始せず第3段階の強オピオイドを使用してもかまいません。がん性痛を適切にマネジメントすることで、患者・家族は精神心理的な苦痛、社会的な苦痛、スピリチュアルペインを医療者に伝えることが可能となり、メディカルスタッフとのチーム医療がより効果を発揮できるようになります。

4.まとめ

がん性痛の定義を理解し、がん性痛を把握して患者さん・ご家族に適切に対応することが、患者さんとご家族のQOLを保ち、その人らしい生活を守るために重要であり、それが医師に求められていることを強調しておきます。

Key Pont:WHO方式三段階鎮痛法

参考文献:

1)
Oxford Textbook of Palliative Medicine 5ht edition, Section 13 Cancer Pain Syndromes, Oxford University Press, Oxford, UK, 2015
2)
世界保健機関 編、武田文和 訳:がんの痛みからの解放 第2版 東京 金原出版1996