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ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在

帯状疱疹関連痛を含む神経障害性痛

神経障害性痛について

神経障害性痛の問題点は?

①痛い ②難治性である ③診断・治療が難しい ④仕事や日常生活に支障が出る ⑤長期化して医療費がかかる

神経障害性痛は苦しく数日で消失するものではなく持続していきます。病院で検査しても明確な診断がなされない、たとえ神経障害性痛と診断されたとしても難治で一般的治療に対する反応に乏しい現状があります。そうなると日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下がおきてきます。EQ-5D(EuroQol 5 Dimension:ヨーロッパで標準的に用いられているQOLの尺度で「0」を死亡した状態、「1」を健康な状態とし0~1の間の数字であらわすもの)では平均的な神経障害性痛患者のEQ-5Dは0.4~0.6、重症神経障害性痛患者のEQ-5Dは0.2とされています。EQ-5D 0.4~0.5は「終末期がん患者が痛みとは無関係に倦怠感等から日常生活を床上で過ごしているQOL」のレベルであり、EQ-5D 0.2は「心筋梗塞患者が絶対安静状態で生活しているQOL」のレベルです。

本邦では神経障害性痛保有率は6.4%で成人人口換算では600万人とのデータがあり、これらの人たちが働けない経済的損失と個人の負担する医療費、国が負担する医療費は多大なものになります。

神経障害性痛の定義1)は?

「末梢神経から大脳に至るまでの侵害情報伝達経路上に生じた病変や疾患によって末梢神経末端の侵害受容器の興奮がなくても神経伝達経路上に発火・応答が発現する」

上記の定義は2011年国際疼痛学会で再定義されたものです。神経障害性痛は単一の疾患を指すものではなく、複数の発症機序を基盤として様々な症状や徴候によって構成される症候群とされています。

神経障害性痛の病態2)は?

「体性感覚神経系の病変や疾患によって引きおこされる疼痛」

神経障害性痛モデルでは、その神経上のイオンチャネルの変化や、脊髄後角でのNMDA受容体(神経伝達物質の受容体)の活性化、神経線維の発芽・異常なネットワークの形成、神経線維周囲のグリア細胞の活性化など分子生物学的機序がわかってきました。これら末梢神経・脊髄の変化に加え、脳の変化により下行性痛覚抑制系(痛みの入力を抑制する生理的機構)が減弱することも示されてきています。

神経障害性痛の臨床的特徴は?

「障害された神経支配領域に自発的な痛みや刺激によって誘発される痛みがあり、その部位に感覚の異常を合併する」

痛みは、持続的あるいは間歇的な自発痛やアロディニア(触刺激で誘発される痛み)、痛覚過敏が特徴的です。「灼けるような」、「刺すような」、「電撃的な」などの痛みに加えてしびれ・感覚低下・感覚過敏などの感覚障害が認められます。

神経障害性痛の診断3)は?

「現症と病歴から疑い、評価・検査で下記A・Bの両方が当てはまるとき確定とし、一方のみの場合は神経障害性痛の要素を一部持っていると診断する」
A:障害神経の解剖学的神経支配に一致した領域に観察される感覚障害の他覚的所見
B:神経障害性疼痛を説明する神経損傷あるいは疾患を診断する検査

上記は国際疼痛学会の診断アルゴリズムからの抜粋です。痛みの範囲が神経解剖学的に妥当か、および体性感覚神経系を障害する病変や疾患があることを示唆する病歴が確認されれば神経障害性痛の可能性があると判断します。上記Aは触覚や痛覚などの評価で知覚低下・痛覚過敏・アロディニアなどの有無を検索します。上記Bは画像検査(MRI CT)、神経生理学的検査(神経伝導検査など)を行いますが、原因部位の特定が困難である場合もあり、最終的には臨床的診断力が求められることになります。スクリーニングツールは海外で開発されたLANSS、DN4、painDETECTなどがあり、本邦で開発された神経障害性痛スクリーニング質問票4)(図1)は、7項目の質問に5段階評価(0~4点)で回答するもので、カットオフ値9点で神経障害性痛をスクリーニングできることが示されています。

神経障害性痛の治療目標は?

①痛みの緩和 ②ADLとQOLの改善

神経障害性痛に対する現在の治療は、完全治癒を可能とするものではなく、痛みを軽減しADL・QOLを改善し、より有意義な日常生活を送ることを目標とします。

神経障害性痛の治療は?

①痛みの緩和:薬物療法 神経ブロック 脊髄刺激療法など
②ADLとQOLの改善:リハビリテーションなど

当学会ガイドラインによる推奨薬物は、第一選択薬がプレガバリンガバペンチンデュロキセチンアミトリプチリンノルトリプチリン、第二選択薬はノイロトロピン、トラマドール、第三選択薬はフェンタニル・モルヒネ・オキシコドン・ブプレノルフィンなどです。リハビリテーションは機能訓練を通じて自己効力感を再獲得してもらうねらいがあります。

混合性痛とは?

「侵害受容性痛と神経障害性痛が並存した痛み」

器質的な原因による痛みは、侵害受容性痛と神経障害性痛に分類されます。侵害受容性痛は「神経組織以外の生体組織に対する実質的ないし潜在的な傷害によって侵害受容器が興奮しておこる疼痛」で、神経障害性痛は神経経路上に引きおこされた痛みです。両者が単独でなく並存した場合混合性痛といいます。

神経障害性痛を呈する疾患にはどんなものがあるか?

「有痛性糖尿病神経障害、腕神経叢引き抜き損傷、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など」

栄養代謝性、外傷性、虚血性、中毒性、感染性、圧迫/絞扼性、免疫性、腫瘍性、変性疾患などいろいろな疾患でみられます。

帯状疱疹関連痛 - 帯状疱疹を例に考えて見ましょう

帯状疱疹は神経節などに不活性化状態で潜伏していたherpes zosterウイルスが再活性化して神経上で増殖、皮膚に到達して皮疹を生じるものです。皮疹からの炎症(侵害刺激)が痛みとなり一次ニューロンの侵害受容器から入力し痛みを伝えます(侵害受容性痛:図2A)。炎症が軽度であれば数週間で治癒します。しかし炎症が強いと神経上で傷害が生じここからも痛みが発生しはじめます(混合性痛:図2B)。炎症が消退し侵害受容性痛は消失しますが神経上の傷害が残存してここからの痛みが発生し続けます(神経障害性痛:図2C)。痛み信号が持続すると脊髄側も変化(可塑化:図2D)して痛みを難治化させてしまいます。従来図2Aは侵害受容性痛の時期で帯状疱疹と呼称され、図2Cは神経障害性痛の時期で帯状疱疹後神経痛と呼称されますが、痛みの病態・時期が明瞭に区別できないためA・B・Cのすべての概念を含む「帯状疱疹関連痛」との呼称が用いられるようになってきました。帯状疱疹後神経痛の病態・臨床的特徴・治療目標・治療は前述を参考にできます。

Key Pont:抗うつ薬、抗痙攣薬


参考文献:
1)
Jensen TS, Baron R, Haanpapa M, et al : A new definition of neuropathic pain. Pain 2011 ; 152 : 2204-2205
2)
Leong ML, Gu M, Spelz-Paiz, R, et al : Neuronal loss in the rostral ventromedial medulla in a rat model of neuropathic pain. J Neurosci 2011 ; 31 : 17028-17023
3)
Treede RD, Jensen TS, Campbell JN, et al : Neuropathic pain : Redefinition and a grading system for clinical and research purposes. Neurology 2008 ; 70 : 1630-1635
4)
小川節郎:日本人慢性疼痛患者における神経障害性疼痛スクリーニング質問票の開発. ペインクリニック 2010;31:1187-1194
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