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ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在

頭部・顔面痛

ペインクリニックには、頚肩上肢痛や腰下肢痛などの運動器疾患、帯状疱疹関連痛により受診する患者が多いのですが、片頭痛や三叉神経痛などの頭痛、顔面痛も治療の対象となります。ここでは、これら頭痛、顔面痛に関する一般的事項に加えて、ペインクリニックで診ることの多い代表的な疾患として、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経痛をとりあげて、その疾患概要、薬物療法、神経ブロック療法について解説します(表1. 頭痛をきたす疾患)。

表1 頭痛をきたす疾患

第1部:一次性頭痛
  1. 片頭痛
  2. 緊張型頭痛
  3. 三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)
  4. その他の一次性頭痛疾患
第2部:二次性頭痛
  1. 頭頸部外傷・傷害による頭痛
  2. 頭頸部血管障害による頭痛
  3. 非血管性頭蓋内疾患による頭痛
  4. 物質またはその離脱による頭痛
  5. 感染症による頭痛
  6. ホメオスターシス障害による頭痛
  7. 頭蓋骨,頸,眼,耳,鼻,副鼻腔,歯,口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛
  8. 精神疾患による頭痛
第3部:有痛性脳神経ニューロパチー,他の顔面痛およびその他の頭痛
  1. 有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛
  2. その他の頭痛性疾患
日本頭痛学会 国際頭痛分類第3版beta版 医学書院:p45,2014より引用

Ⅰ.頭痛

頭痛は、ありふれた痛みであり、誰もが一度は経験したことがあると思われます。実際、外来患者の訴えの10~15%を占めるともされており、頭痛診療がいかに重要であるかがうかがわれます。

その原因は多岐に渡り、生理的なものから心因性のものに加えて、生命に関わる重篤な疾患が潜んでいることもあります。これらは他に原因がない一次性頭痛と、ある疾患や病態に起因して起こる二次性頭痛に大別されますが、その多くは前者に属します。なお、国際頭痛学会による国際頭痛分類第3版beta版(The International Classification Of Headache Disorders, 3rd edition beta version : ICHD-3β)では、詳細な分類を行い、その基準に基づいて診断を進めることを提唱しています。慢性の頭痛では、痛みの出現パターンや程度が一定しないことも多く、診察するタイミングによっては診断に難渋することもあります。市販鎮痛薬の使用過多による薬物乱用性頭痛を引き起こしていることもあり、経過を正確に聴取することが大切です。患者に、頭痛日記をつけてもらうことも、診断に役立ちます。

頭痛診断は難しいと思われがちですが、最も重要なことは、“今まで経験したことのない”痛みや、神経症状を伴った痛みといった緊急性の高い症状を見逃さないことです。

  1. 緊張型頭痛

    1)病態と診断
    頭痛の中で最も多い疾患です。痛みの性状は、圧迫感、絞扼感と表現されることが多く、患者は軽度~中等度の締めつけれられるような痛みを訴えます。痛みは両側性であることが多く、発作的な痛みを繰り返すものや、長時間痛みが持続するものなど様々です。頭痛疾患の中では症状は穏やかで、日常の生活動作に支障を来すことはほとんどありません。
    原因には、頭頚部筋群の緊張による虚血が関与するとされています。後頭筋群、側頭筋、咬筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋などに圧痛点を確認することも診断の助けとなります。

    2)治療
    薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs : NSAIDs)、アセトアミノフェンに加えて抗うつ薬などを処方します。
    ペインクリニックでは、神経ブロック療法を施行することが多く、圧痛点へのトリガーポイント注射、後頭神経ブロック、頚椎椎間関節ブロックなどを選択します。また、頭頚部の血流改善を期待して星状神経節ブロックを行うこともあります。

  2. 片頭痛

    1)病態と診断
    片頭痛の年間有病率は8.4%(性別では男性が3.6%、女性が12.9%)、好発年齢は20~40歳で、多くは30歳までに発症します。その有病率の高さに加えて、就労年齢層に多い疾患であることからも、社会経済的な問題となっています。
    痛みは、中等度から重度であることが多く、発作時には寝込んでしまうこともしばしばです。睡眠不足や、肩こり、過労、眼精疲労などが発作の誘発因子となります。発作の前兆として、症状発現の1時間以内に閃輝暗点や片側感覚異常といった神経症状を呈するものがあり、ICHD-3βでは、この前兆を伴うものと伴わないものに大別しています。前兆とは別に、発作の数時間から一両日前までに、気分の変調、欠伸、眠気などの予兆を伴うこともあります。発作時の痛みは、拍動性のことが多いのですが、非拍動性のこともあり、患者の訴え方は様々です。また、必ずしも片側性に症状が現れるわけではなく、両側性のものや、左右交互に症状が現れるものもあります。近年では、片頭痛発作時に頭部や上肢にアロディニアを随伴するとの報告もあり、前兆や予兆、アロディニアの有無を聞き出すことが診断にあたっては重要となります。

    2)治療
    薬物療法が基本となります。予防薬としては、抗てんかん薬、抗うつ薬、β遮断薬などを用います。発作の頓挫薬としては、トリプタン製剤、NSAIDs、アセトアミノフェンを用いますが、中等度以上の痛みにはトリプタン製剤が第一選択となります。トリプタン製剤は効果発現に時間を要するため、発作出現後早期(前兆時)に服用することが重要です。
    神経ブロック療法では、前額部の痛みには前頭神経ブロック、こめかみから側頭部では耳介側頭神経ブロック、後頭部を中心とした痛みには第2頸神経の神経根ブロックや後頭神経ブロックの適応を考慮します。予防的効果を目的として星状神経節ブロックを施行することもあります。

II.顔面痛(表2. 顔面痛をきたす疾患)

顔面痛を呈する疾患は、他の痛み疾患と比較すると多くはありませんが、食事や会話、洗顔、歯磨きなどの日常生活動作で痛みが出現、増悪するために、患者のQOLを著しく損ないます。ペインクリニックでは、三叉神経痛や、三叉神経領域の帯状疱疹関連痛を扱うことが多いのですが、これらはいずれも神経ブロック療法の良い適応となります。ここでは、神経ブロック療法の良い適応となる三叉神経痛について解説します。なお、帯状疱疹関連痛に関しては、他項を参照して下さい。

表2 顔面痛をきたす疾患

13.1
三叉神経痛(Trigeminal neuralgia)
13.1.1
典型的三叉神経痛(Classica1 Trigeminal neuralgia)
13.1.1.1
典型的三叉神経痛.純粋発作性(Classical trigeminal neuralgia purely paroxysmal)
13.1.1.2
持続性顔面痛を伴う典型的三叉神経痛(Classical trigeminal neuralgia with concomitant persistent facial pain)
13.1.2
有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy)
13.1.2.1
急性帯状態疹による有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to acute Herpes zoster)
13.1.2.2
帯状癒疹後三叉神経ニューロパチー(Post-herpetic trigeminal neuropathy)
13.1.2.3
外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful post-traumatic trigeminal neuropathy)
13.1.2.4
多発性硬化症(MS)プラークによる有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to multiple sclerosis(MS)plaque)
13.1.2.5
占拠性病変による有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to space occupying lesion)
13.1.2.6
その他の疾患による有痛性三叉神経ニューロパチー(Painful trigeminal neuropathy attributed to other disorder)
13.2
舌咽神経痛(Glossopharyngeal neuralgia)
13.3
中間神経(顔面神経)痛 [Nervus intermedius(facial nerve)neuralgia]
13.3.1
典型的中間神経痛(Classical nervus intermedius neuralgia)
13.3.2
急性帯状庖疹による二次性中間神経ニューロパチー(Nervus intermedius neuropathy attributed to Herpes zoster)
13.4
後頭神経痛(Occipital neuralgia)
13.5
視神経炎(Optic neuritis)
13.6
虚血性眼球運動神経麻痺による頭痛(Headache attributed to ischemic ocular motor nerve palsy)
13.7
トロサ・ハント症候群(Tolosa-Hunt syndrome)
13.8
傍三叉神経性眼交感症候群(レーダー症候群)〔Paratrigeminal oculosympathetic(Raeder's,)syndrome〕
13.9
再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー(Recurrent painful ophthalmoplegic neuropathy)
13.10
口腔内灼熱症候群(BMS)(Burning mouth syndrome: BMS)
13.11
持続性特発性顔面痛(PIFP)(Persistent idiopathic facial pain: PIFP)
13.12
中枢性神経障害性疼痛(Central neuropathic pain)
13.12.1
多発性硬化症(MS)による中枢性神経障害性疼痛(Central neuropathic pain attributed to multiple sclerosis: MS)
13.12.2
中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)(Central post-stroke pain: CPSP)
日本頭痛学会 国際頭痛分類第3版beta版 医学書院:p154,2014より引用
  1. 三叉神経痛

    1)病態と診断
    三叉神経痛は、三叉神経の支配領域(顔面や舌)に激しい痛みを生じる疾患です。発作間欠期には痛みが消失しますが、顔面、口腔への軽微な刺激で痛みが誘発されます。発症機序は、小脳橋角部の入口部での三叉神経の機械的な圧迫によると報告されています。圧迫を受けた三叉神経は脱髄を起こし、感覚神経線維との短絡(エファプス)を形成することで痛みを生じます。全体の約90%はこの典型的三叉神経痛ですが、若年発症や両側性の痛み、他の神経症状を合併する場合には、何らかの器質的疾患による症候性三叉神経痛を疑うべきです。
    診断する上で最も重要なことは、詳細な問診を行うことです。痛みを誘発するトリガーポイントの存在や、鋭く耐えがたい電撃痛といった特徴的な所見を聞き出すことで、おおむね見当がつきます。また、診断的意義を含めてカルバマゼピンの投与、三叉神経末梢枝ブロックを行うことも有用です。症状が典型的でない場合には、MRIでの責任血管の同定、症候性の場合では腫瘍や脳動静脈奇形の存在を確認することが重要です。

    2)治療
    第一選択薬は前述のカルバマゼピンです。何らかの理由でカルバマゼピンが使用できない場合には、ラモトリギン、バクロフェンを用いますが、効果は劣ります。
    神経ブロック療法については、1枝領域の痛みでは眼窩上神経ブロック、2枝領域では眼窩下神経ブロック、上顎神経ブロック、3枝領域ではオトガイ神経ブロック、下顎神経ブロック、広範囲の痛みではガッセル神経節ブロック(高周波熱凝固による)を行います。その他、他科では神経血管減圧術やガンマナイフなども行われています。

推奨書籍:
1)
国際頭痛分類第3版beta版/日本頭痛学会
2)
ペインクリニシャンのための新キーワード135/小川節郎
3)
ペインクリニック2015.4別冊ペインクリニシャンのための頭痛診療/森本昌宏
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