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ペインクリニックで扱う疾患と治療の現在

血行障害性疼痛

概要

血行障害性疼痛は主に四肢に生じ、末端の血行障害によって生じる痛みです。四肢の血管、特に細血管が病的な収縮や炎症、動脈硬化などにより血行障害をもたらし、末梢の組織が虚血状態となります。症状は、軽度のしびれや痛みの症例から、皮膚潰瘍や壊死を生じて切断手術が必要な症例までさまざまで、中等症~重症例では日常生活動作を大きく制限します。また歩行や動作により痛みが生じるものから、安静にしていても痛むものまで、痛み方も症例によって異なります。痛みの原因は、虚血に陥った組織から、疼痛を誘発する物質が分泌され、痛みを生じさせるのですが、それがさらなる炎症や血管収縮を引き起こし、重症化をもたらすと考えられています。

代表的疾患

血行障害性疼痛の代表的疾患としてバージャー病や閉塞性動脈硬化症、レイノー病などがあります。バージャー病は末梢の細動脈が炎症により閉塞する病気で、閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans:T.A.O.)と呼ばれることもあります。原因不明の疾患ですが①喫煙者、②男性に多発することがわかっています。本疾患は難病に指定されています(特定疾患治療研究対象疾患)。

閉塞性動脈硬化症は海外では主に末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease;PAD )と呼ばれることが一般的です。血管壁へのコレステロール沈着で血管内腔が狭くなり虚血を生じるもので、高脂血症や高コレステロール血症、糖尿病の患者に多くみられます。上肢より下肢に生じることが多く、特徴的な症状として間欠性跛行(しばらく歩くと下肢痛が出現し、安静で改善)がみられます。

レイノー病は寒冷刺激などにより四肢、特に上肢の末梢血管の異常収縮が生じ、両手指が痛みやしびれ、蒼白~チアノーゼなどを生じる疾患です。原因は不明ですが、比較的若年の女性に多いと考えられています。背景疾患として強皮症や全身性エリテマトーデスなどの膠原病や多血症、神経疾患が存在する場合にはレイノー症候群として区別します。

診断

臨床症状として痛みやしびれ、色調変化がみられるときに動脈拍動の触診、聴診(拍動音や雑音)を調べます。バージャー病や閉塞性動脈硬化症などのPADでは間欠性跛行がみられますが、腰部脊柱管狭窄症のような脊椎疾患でみられる間歇性歩行でみられる前屈での症状改善がみられないことが鑑別のポイントのひとつになります。ドップラー血流計や脈波計を用いて足関節/上肢血圧比(Ankle Brachial Pressure Index:A.B.I.)を測定し、A.B.I.が0.9を下回った時に、下肢血管の閉塞性病変の存在を疑います。バージャー病と閉塞性動脈硬化症との鑑別には血管造影や超音波検査、サーモグラフィ、CTスキャン、MR(MRI、MR A)などを行います。

治療

治療としてはまず生活指導が必要で、禁煙、保温、四肢末端の保護を十分に患者に教育します。薬物療法は背景疾患(高脂血症や高コレステロール血症、糖尿病)が存在する場合には内科的治療を怠らぬように注意し、血管拡張薬や抗凝固薬、抗血小板薬、鎮痛薬などが用いられます。

侵襲的治療法としてはペインクリニックが専門とする神経ブロックが代表的です。末梢神経ブロックは痛みを強力に改善すると同時に随伴する交感神経をブロックすることによる血流改善効果が期待できます。また、交感神経(星状神経節や腰部交感神経節など)をブロックすることでより強く広範囲の血流改善を得ることができます。胸部交感神経節や腰部交感神経節などでは神経破壊薬を用いて長期的効果を得ることを目的とします。手術療法として胸腔鏡下交感神経遮断術が行われることもあります。その他、脊髄刺激療法(Spinal Cord Stimulation)や手術療法(壊死組織に対する切断手術、血管手術)、末梢血単核球細胞移植などの血管再生療法などがあります。
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