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痛みの悪循環
痛みが痛みを引き起こす
 痛みが痛みを呼んでくる・・とはどういうことでしょうか?これは、痛みを我慢したり、放置したりしているとさらに強い痛みとなる可能性があることを表現したものです。痛みがさらに強くなる原因として、様々なメカニズムが考えられていますが、そのなかでも痛みの悪循環や神経系における痛みの増幅機構が重要です。

 痛みの悪循環は、外傷や疾病などによる痛みが契機となって生じます。痛みの入力により交感神経が興奮すると、血管の収縮に伴う虚血痛や筋肉の攣縮痛、さらには血管から分泌される物質による炎症性疼痛が生じます。虚血状態は組織の酸素欠乏状態をもたらし、発痛物質や痛みに関連した代謝産物を蓄積させ痛みを増幅させます。また、交感神経の興奮自体が知覚神経の過敏化をもたらします。これらの現象により、契機となった痛みより、程度や範囲の点でさらに強い痛みとなり、性質も変化します。こうした機序により生じる疼痛疾患としては、遷延性の術後痛や複合性局所疼痛症候群(CRPS: Complex regional pain syndrome)などが挙げられます。これらの痛みの悪循環は早期に、かつ強力に断ち切るのが重要になります。実際の手段としては。神経ブロックや鎮痛薬・鎮痛補助薬の投与、その他の鎮痛手段や手術療法などが用いられます

 神経系における痛みの増幅機構については、末梢神経と中枢神経における増幅機構が考えられています。痛みの主因である局所の炎症では、発痛物質や発痛増強物質などによって末梢神経から中枢に痛みが伝えられますが、その時末梢神経を過敏な状態にさせることが知られています。また、末梢神経は痛み信号を中枢側に伝えますが、末梢側では軸策反射により神経末端からの疼痛関連物質を放出させます。そのことにより、痛みの閾値の低下が生じて通常では痛みを感じない刺激(軽い接触や比較的低温での熱刺激など)で痛みを感じるようになります。また、中枢神経系においては痛みが入力される脊髄後角細胞における反応性の増強が重要です。脊髄後角細胞において痛みの入力が頻回に生じると反応性が高まることが知られています。また、より中枢においては、高次機能や情動に関する脳に痛みが修飾されることが知られており、痛みの増幅と関連している場合があります。これらの痛みに関する神経系の増幅機構は、臨床の場面において、軽く触っただけでも痛みが生じる現象(アロディニア:異痛症)や知覚低下〜脱失部位における痛み(求心路遮断痛)として観察されます。疾患としては帯状疱疹後神経痛や脳梗塞後の痛み、脊髄損傷後の痛みなどでみられます。このような状態になりますと、通常の鎮痛薬や神経ブロックでは痛みの改善は望みにくく、中枢神経系に働く薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬など)の投与が必要とされます。

 痛みの悪循環や神経系における痛みの増幅機構は難治性疼痛や慢性疼痛の原因として重要な概念です。これらのことを十分理解して適切な痛みの治療をできるだけ早期に行うことが、痛みが痛みを呼んで来させないようにするために重要です。